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第2回 岩手で出会った”かりんとう”
 
 岩手のお菓子といったら何を思いつきますか?
 もちろん南部煎餅!うん確かに。でも私は見てしまったのです。先日盛岡に行ったときに見てしまったのですよ!”ほっといわて”という肴町アーケードの中にある岩手県の地場産品アンテナショップへ行ったときのことでした。その店を入っていすぐ右側に、やはり南部煎餅がたくさんならんでいました。でもです、その左側に、あれ?これなんだろうというちょっと見かけたことのない変わった形のお菓子があったのです。むむむ・・・これって煎餅???


”ほっといわて”はコミュニティタウン・サカナチョウにあります
アンテナショップ肴町ほっといわて


 もうおわかりの方もいらっしゃるかもしれません、それは”かりんとう”でした。なんだ”かりんとう”なんてどこでも売っているじゃないか!確かにそうですね。通常のかりんとう(少なくとも過去に私が出会ってきたもの)は棒状の黒あるいは茶のものを想像しますでしょう。時にはこれが一口ではとても入りきらないくらい太くたくましく、時には細くそう堅くなく、私の小さな口でもokよ!なんていう。でも、そこにあったかりんとうは、平たく丸く、くねくねと曲がり凹凸があり、そして、いくつかのものはくるくると渦巻き模様がついている”かりんとう”だったのです。
 そうです、岩手では確かに南部煎餅が有名ですが、この”変わった形の”かりんとうも”岩手特有”の隠れた特産品だったのです!!!

  

 


ところが~!!!!!!!!!!
なんと、見つけてしまったのです。品川のとあるお菓子屋で同じようなかりんとうを!

 

おまけに、片方には”特選京菓”なんて書いてあります。京都といったら岩手とは大きく離れているではないですか!

がらがらがっしゃ~ん・・・・
上記”岩手特有”のという結論はもろくもくずれさってしまったのです。

 結局、私の堅い頭の中には、かりんとう=棒状という固定観念があっただけで、ふだんけっこうその辺で売られていたのに気がつかなかっただけだったのか?!あれま~、これじゃ今月の特集が終わっちゃうよ~!でも待てよ、考えてみれば、かりんとうで多く使われている黒糖は、そもそも琉球地方の特産のはず。ということは黒糖が使われることが多いかりんとうは琉球の特産の可能性が高い。きっとそこにはさまざまな形のかりんとうがあるに違いない!ということで、沖縄特産品を数多くそろえている”銀座わしたショップ”をのぞいてみました。



”わした”は”わたしたち”を意味するそうです
沖縄県物産公社 わしたショップ


 しかし、平たいタイプはもちろん、さまざまな形のかりんとうともお目にかかることはできませんでした。
 さらに”かりんとう”探しをしてみました。

 まずは、有楽町にある花まるっ秋田ふるさと館。
 

 ここにあったかりんとうは、角館のもの。ひらたいうすばタイプのもの、ねじりタイプのものがありました(上記写真の右端のものは、クッキーのようなお菓子でかりんとうではありませんでした)。お店の方の話では、たしかに大きいかりんとうは見かけることがあるとのこと。また、仙台にもあったように思うということでした。

 渋谷東急デパートで開催されていた物産展にも行ってみました。

 仙台駄菓子という名がある仙台のお菓子屋さんがあり、そこにかりんとうがありました。棒状ではなく平たい形で小さめ。岩手で見たものとはだいぶ違います。お店の方の話では東北地方には平たく大きいものが多いということ。

 やはり、岩手というより東北地方のかりんとうは大きく平たいタイプが多いということは間違いなさそう。
 さらに本を調べてみました。といっても、なかなかかりんとう情報が出ている本は見つかりません。でも、いくつか興味深い話を見つけることができました。

 「みちのくの駄菓子」(石橋幸作 著 (株)未来社 発行)によると、青森県八戸には昔からの駄菓子が多く残り”狐面型”かりんとうは東北独特のものということです。また、渦巻き型かりんとうは、渦巻きの黒い部分は黒砂糖と小麦粉をねったもの、白い方は小麦粉だけをねったものから作られていて、これらを平らに延ばし重ね巻きにして包丁で切るとのこと。これを薄く切るのが、熟練のわざとか。

 また、「いわての銘菓」(細野定雄 著 (有)ツーワンライフ 発行)に”三本柳かりんとう”というかりんとうが紹介されています。江戸時代の大凶作時に肥沃な土地であった三本柳に人が集まり、この人々を助けるために、小麦粉で作った”ひっつみ”や大豆油で揚げた大きな揚げ物を恵んだとか。大きいものでもてなすということは、心の大きさを意味し、また、自慢でもあったそうです。

 ふむふむ、東京で見つけた大きな平たいかりんとうの問題は残っているが、東北地方、特に青森、岩手の南部地方に多いようだ。

 さらに、インターネットでかりんとうを探索。かりんとうで引っかかってくるページは大変多くありました。めぼしい情報はあまりありませんでしたが、長野県松本市にある久松食品(株)のホームページによると、かりんとうは江戸時代から庶民のお菓子で、天保年間には各地でかりんとう売りが見かけられたとのこと。他、浅草の亀十にて”うすばかりんとう”があり、葛飾でも、その手のかりんとうを見つけたというホームページがありました。


プレゼントもありました!
久松食品株式会社のホームページ


さて、そろそろ他の資料も含めてまとめてみると、
■かりんとうは保存食、駄菓子として全国に広がった
■かりんとうは基本的に小麦粉を練ったものを揚げたもの。小麦粉を練ったものは加工しやすいため、いろいろな形が作られてきた。現在は棒状のものが主流。
■”狐面型”、あるいは、”みみかりんとう”といわれる大きなかりんとうは東北独特のもの。
■かりんとうに黒砂糖を使用するのは、江戸時代に白砂糖は高級品ということでなかなか使えなかったことによるらしい。
■駄菓子のイメージを変えて販売したのは中村屋とか。

などなど。
 結局、かりんとうは日本全国で現代になっても愛されつづけているわけで、その昔厳しい自然条件の中、けっして経済状態にめぐまれていなかった東北の南部地方で生まれた大きく平たいタイプのかりんとうは、長い年月の間に他の地方へも変わった形のものとして伝わっていったのではないであろうか。新しいお菓子を毎日のように見かけるこのごろであるが、昔ながらの素朴な姿を残した”岩手のかりんとう”が珍しく斬新なお菓子として目に付いたのは、皮肉なめぐり合わせだったのかもしれません。

ぜひ、みなさんの”かりんとう”情報を教えてください! → たくさんとくさん編集局

(上記紹介各サイトの方々には特に断りを入れておりません。もし、問題ある場合はご連絡下さい。ご協力ありがとうございます)